企業再生塾<中堅・中小企業経営の理論と実務>

2、「人の再生」が、なぜ増収・増益に?

☆社長時代の考えの間違い


社長在任の8年間、「人の再生」に向けて自分なりに考えつくことは、何にでもチャレンジし、自分なりに独自の理論を体系化したつもりだったが、この考えは少し間違っていた。社員の受け止め方は、もっとシンプルだった。


社員からは「ビジョンがはっきりしていて、仕事を任してくれたし、社長がともかく熱心で、誰にでも声をかけてくれたので、社員もその気になって夢を見ることができた」という評価が多かった。
次に多かったのが、「ともかくあの時が楽しかった。会社も盛り上がったし、家族も盛り上がったし、お客様からも誉められたし・・・」という、漠然とした感想だ。もっと冷静な社員からは、「仕事が面白かったから、疲れなかった。会社の業績が伸びる度に、勝利者のような気分で楽しかった」というのだ。


「人の再生」というと、何か人道主義的経営をイメージしてしまう人が多いが、それは誤解だ。社員は理屈っぽい理論より、夢に向かって仕事に立ち向かい、成果を出し、仕事で自己実現をはかる成長を確かめたいのだ。社員の喜びは企業の成長と個人の成長が不可分で、企業と個人、両者の成長こそ「人の再生」の最大の原動力なのだ。

☆「人の再生」がなぜ好業績に直結するのか


結論から言おう。今、あなたが社長ではなく、サッカーチームの監督だったとしたら、まず何を考えるか?経営もこれと同じだ。まず、「人の再生」の問題に取り組まなければならない。ところが、大企業の経営感覚を引きずると、企業活動の複雑さ、組織に依存する甘えが邪魔をして、その本質を見失ってしまう事が多い。また、施策の浸透に時間がかかり成果を見る前に、このテーマより数字を追跡する経営になりがちになる。


しかし、組織力に弱い中堅、中小企業は大企業とは違う。まず、人が再生しない限り、業績が動いてこない。また、社員が再生すると同時に、その成果が数字に反映し始めるのである。
「企業が進むべきビジョン」がはっきりすると、社員は生き生きと活躍し出し、一人当たりの生産性が伸び始めるのだ。また、新しい市場の感性に敏感な若い人たちが会社のエネルギーとして爆発して来るのだ。


その経験の一つを紹介しよう。社長就任後、外部から最初に誉められたのは、春の健康診断の時、ある看護師さんから、「社長の会社の社員さんは、はきはきして気持ちがいいです。しつけが本社の人を超えました」という言葉だった。その時は、その関係が分からなかったが、仕事が面白く感じ始めると、社員は普段の態度まで変わり始めるのだ。数字が大きく動き出したのは、この春の健康診断で誉められた年度からだった。


その年の年度末のコンペでは、予想だにしなかった連戦連勝が続いた。社員はすでに一人一人が勝利の楽しさ、勝利の方程式を身につけて仕事に取り組み始めていたのである。

☆社員の「勝利の方程式」


社員の「勝利の方程式」の話をしよう。これは予想もしないことから始まった。私は社員とのヒヤリングを続けていた時、ハッと気づいたことがあった。「経営とは、経営者が社員を活かして使うのではなく、第一線の社員が働きやすいように奉仕するスタッフではないか」というひらめきだった。


ピラミッド型の経営ではなく、社員が主役の逆三角形の経営を考えなければならないのではないかと思ったのだ。トップは企業のこれからの方向性を指し示すが、具体的行動は、社員の力で「会社に残したいDNA」を選別して、実践に強い事業計画を練り上げるのではないだろうかと。
そう気づいた年度から、夏休みが終わろうとする9月初めの閑散期に、部長職と一緒に一泊二日の勉強会を始めた。私がコーディネーターとなり、実績検証の中から会社に残したいDNAを選別し、そのDNAを伸ばす組織運営を考える勉強会だ。


コーディネーター役の社長は、分析資料を提供し、まず、幹部社員に実績検証をしてもらう。このプロセスには厳しいチェックも入れたが、部長クラスがこれからやりたい方向、考えには良き理解者となって、次年度の事業計画に極力反映することにしたのだ。


この経営リズムが出来てからは、数字が面白いように上昇をし始めた。次年度の計画がまとまると、次年度に向けてクライアントと事業パートナーを招き、社員全員も参加して情報を共有し、ネットワーク懇親会で本音を語り合い、会社の取り組みをお客様向けに軌道修正して、関係者全員で明日を目指す勝利の方程式を作り上げることになったのである。

*ビジョンづくりなど、具体的施策は、次月に続く (2013年4月1日更新)